水谷任佑さん
東京都出身。2019年4月、土佐市の地域おこし協力隊に着任。
土佐市内の耕作放棄地や、規模を縮小する地元農家から借り受けた畑を活用し、文旦の有機栽培を手掛ける。母校である東京農業大学に設置された小学校の食育授業では、素材として自身が育てた文旦を提供するなど、都市部への土佐文旦PRにも奮闘中。
・土佐市内の耕作放棄地の再生及び文旦の有機栽培
・環境型農業一筋! 自ら提案して売り込んだミッション「有機栽培」にかける想いは人一倍熱かった。
・新しい土地へいち早く馴染むため、脱・真面目くん作戦を決行。まっさきに変えたのは、まさかのアレ。
・吹かれても飛ばない、根をしっかりと張った農家になるために。奥さん探しを終え、奮闘するのは●●探し!
― 農業担当の協力隊はたくさんいますけど、「文旦」と作物が決まっていて、しかも「有機栽培」と絞り込まれているのはかなり珍しいですよね。
小さい頃から農業に関心を持っていて、大学・大学院では植物ウイルスの研究をしていたこともあり、親戚の住む茨城で8年ほど、野菜の有機栽培をやっていました。かなり悪戦苦闘する中で、現地の協力隊員からたまたま話を聞く機会があって。新規就農ではハードルの高い果樹の栽培も、協力隊制度を使えば挑戦できそうだと思い、東京で開催された県の移住フェアに「文旦、作れますか?」と話を持ち込んだのが応募のきっかけです。元々、土佐市の協力隊はミッションの枠組みがゆるく、「農業分野」で募集されていたんですけど。
― まさかの持ち込み! しかも東京生まれ東京育ちなのに土佐文旦狙い撃ちとは……高知に昔から馴染みがあったとか?
高知、というか四国には、協力隊の面接を受ける時が初上陸でした(笑)。文旦は子どもの頃に、たまたま食べた時の印象がすごく強かったんですよね。それに皮が厚くて保存性も高いので、多少外側に病虫害があっても中身は影響を受けにくくて、環境に優しい方法で育てるのに向いているだろうと。今は首都圏であまり出回ってない作物だからこそ、売り出す余地もあるだろうと思ってます。
― 事前に入手した資料から、「ひたすら実直!!」に違いない方とふんでましたが、予想通りでした。
実は着任前、「真面目すぎる」とか「とっつきにくい」と周りに思われる気がしたので、親しみやすい雰囲気を出そうと結構努力したんですよ!
— ほほう、というと具体的には!?
例えばこの、メガネとか(外して見せる)。
— ぬ…?
いや、ほら、こんなオレンジのやつ! フレームが! 前はもっと、何の変哲もないやつだったんですよ。ファッション全体、協力隊になる前よりかなり気を遣うようになりました(ドヤ顔)。
— 前言撤回、ただの堅物、ではない(笑)
まぁ、こっちに来て婚活を始めたというのもあるんですけど。
— ぬぬ!?
県が主催するイベントで、今の彼女と出会いました。週に3・4日、市外の実家から週に農作業を手伝いに来てくれていて。土佐弁のプライベートレッスンもお願いしてます(笑)。
― えええ何だよ、幸せか!! いや、それに超したことないんですけど。 将来を考えるお相手を見つけた、ということは、身一つで飛び込んだ高知の水は肌に合っていたんですね?
すごくオープンで、よそ者も快く受け入れてくれる土地柄ですよね。昨年参加した地域の秋祭りでも驚いたのが、地域外の子どもたちも踊り手としてたくさん参加していたことで。茨城では、高齢化につれて地域の行事がどんどん消えていってしまう様子を見ていたので、高知の人は外の力をうまく取り込むのが上手なのかなぁと思いましたね。
― それはとてもわかりますね。みんな良い意味で、おせっかいしてくれる。
僕が応募した時の市の担当職員さんには、協力隊担当を外れた後にもずっとお世話になっています。今住んでいる一戸建ても紹介してくれて、悩みを聞いてもらったり、ホームパーティに呼んでもらったり。協力隊の卒業生ともその方を通じて知り合えて、ありがたいですね。
― お仕事、活動の面も、順調ですか? すでに農業のご経験が長いだけあって、かなり有利なのかしら、とも。
1年目は、地元の農家さんのお手伝いを通じて経験を積みながら、耕作放棄地を借りて実践の場としました。2年目の今は、更に他の放棄地や高齢で規模縮小される文旦畑を借り受けて、栽培面積を徐々に広げているんですが……腕にはかなり自信があった草刈り機が、野菜畑で使っていたものと、文旦の山で使うものとでは全く別物で。傾斜地で、木の下でかがむ必要があるしで、使いこなすのには中々苦労しています。
― 想像しただけで、腰が痛くなってきました。。。卒業後、定住の未来は描けていますか。
農作業スペースのある家探しが目下の課題ですね。中々タイミングよく、空き家が見つからなくて……。場所が確保できなければ、仮に技術があったとしても吹けば飛ぶような存在ですからね、綿毛みたいな。
― おお「綿毛」、キャッチコピーに良さそうなワードが。
キャッチコピー、迷ってたんで使ってください(笑)。まぁ僕も、かなりの覚悟をもって協力隊に挑戦してるので、頑張って探し続けます。見た目は悪くても、環境にできる限り配慮し、食べるひと、作るひと、そして周りに住むひとにも安全な方法で育てた作物を東京の街中にも広めていきたくて。そういった農産物が、子どもにとって当たり前になればなと……。あ、子どもって僕のじゃなくて、その……。
― はい(笑)、次世代の子どもたち、ですよね? いや、でも、ご自身のお子さんも遠からずなくせに!
「返杯」
立花:土佐の酒文化として、今や全国区となりつつある風習ですね。自分の盃を相手に渡してお酌、注がれたら飲んで、盃を返して注ぎ返す……だいぶ、えぐいやつがエンドレスに続く。