fbpx

山間部の小さな村で協力隊に着任、そして結婚(越知町)

  • 2021年8月6日

大原 梓(おおはらあずさ)さん

高知県安芸市出身。高知県越知町の地域おこし協力隊(2016~2018年)を経て、越知町の集落支援員という立場で「山笑ふ横畠集落活動センター」の運営団体である「チーム横畠」の事務局員としてセンターの運営に携わっています。協力隊の着任中、ご主人と出会い結婚。越知町にある黒森山の中腹の横畠地区に家を建て、段々畑で野菜を育てながら、のどかで平和な暮らしを満喫しています。

大原 梓さんにインタビュー (越知町)

― 「幸せ」は何気ない会話のなかにある

高知市から西に車で1時間ほどの場所に、地域おこし協力隊OGの大原 梓さんが住む越知町が位置しています。越知町のなかでもさらに20分ほど山道を登ると「横畠地区」と呼ばれる人口150人前後の集落があります。ここは、背後に黒森山、目下に仁淀川が流れる「山と川」の自然豊かなエリア。

大原さんのご自宅のバルコニーは横畠地区の特等席。ご家族で手入れをしている段々畑と美しい山並みを臨み、更に野鳥の鳴き声が響き渡る贅沢な環境で、毎日自宅を中心とした穏やかな生活を送っています。

横畠地区で協力隊となり、そして結婚と、人生のターニングポイントを過ごしてきた大原さん。いま一番充実している時間はどんなときなのでしょうか?

「旦那さんのご両親といっしょに、なんでもない話をしながらする夕食が一番楽しいです。家族で畑をやっているので、芽が出たとか、実が大きくなってきたとか、草を引く(雑草をとる)とか、収穫できたとか…。そういう小さな日常の共通の話題ができる時に充実しているなって感じます」とゆっくりとした口調でお話が始まりました。

日常のあちこちにこぼれ落ちる小さな幸せをかみしめるように答えてくれた大原さん。温かな日常が想像できる回答に、こちらまで顔がほころびます。

― 「地域づくり」に興味があり、地域おこし協力隊へ

大原さんが協力隊になったのは2016年。高知県内の大学を卒業後、一度高知県内の食品会社の東京支所に就職するも、かねてから興味があった「地域づくり」を仕事にするべく退職。安芸市の実家に戻って仕事を探していたところ、横畠地区での地域づくりをミッションにした地域おこし協力隊の募集があることを知り、すぐに応募しました。

ミッションで中心的な業務になったのは、現在も働いている「山笑ふ横畠集落活動センター」の立ち上げです。この施設は、市街地から離れた中山間地域(※1)の暮らしの支えや、小さな経済活動を目的とし、宿泊施設、喫茶店、コインランドリーのほか、地域の人たちのお困りごとを解決する「お助け隊」などが活動の中心です。廃校となった横畠小学校校舎を改修して拠点としています。

大原さんはセンターの事務局という立ち位置で、館内の掃除や花壇のお世話、受付対応など、利用者たちが気持ちよく使えるためのお手伝いに徹しています。

ここを立ち上げて働き出して3年が経ち、次第に「地域に受け入れられている感覚」があるという大原さん。地域の人たちと仲良くなる秘訣を聞くと、「お酒のお誘いをできるだけ断らないこと」と即答が。大原さんご自身も“お酒好き”だと言いますが、高知県のお酒文化には未だに驚くことが多く、新しくやってきた協力隊員にはこんなアドバイスをしているそうです。

「高知県民はご存じの通りお酒好きが多いんです。ご高齢の方は特に、返杯(※)をするとぐっと距離が近づくのが分かりますから。だから、『飲める!』と言うと、次から次へとお酒を差し出してくださって、ついつい飲みすぎてしまうので注意が必要。宴会のときは『お酒はそれほど飲めないんですが、お酒の席は好きです』と言って、体を壊さないようにしています(笑)」

こうやって、ちょっとした工夫をしながら地域の人たちと一緒にお酒を飲むことで、横畠地区の住人の顔と名前を覚えていきました。「田舎は特に人と人とのお付き合いが大切で、人間関係も深いですから、うまく付き合うコツをお酒の席で習得しました」とこっそり教えてくれました。


※ 同じ杯を使って酒を酌み交わすお酒天国・高知流の飲み方。

横畠地区へ移住後、結婚。そして永住へ

気になる地域おこし協力隊の「恋愛と結婚」についても聞いてみました。大原さんのご主人は、横畠地区生まれの地元の方で、地元企業にお勤めです。

大原さんが地域おこし協力隊として地域の行事をお手伝いするなかで、地元のリーダー的存在として活動をしていたのがご主人。協力隊の業務を通じて関わる時間が多く、自然とお付き合いに発展していきました。「横畠でいいご縁があってよかったです」と大原さんはにっこり。

横畠地区は安芸市のご実家から2時間半ほど離れていますが、同じ県内なので遠くにお嫁に行くような不安はなかったそう。安芸市は「海の町」、その一方で横畠地区は「山の町」。ここへ来たばかりの時は、人の価値観や文化が違う側面に不安半分、興味半分でした。

「同じ高知県でもエリアによって気風が違うことを、身をもって実感しています。最初は戸惑うこともありましたが、今では自分のなかで整理がついて、次第に受け入れることができてきました」と大原さんは振り返ります。

また、協力隊として引っ越してきたばかりの頃と比べると、地元の方との親密度が増してきました。大原さんが山の町の価値観を受け入れると同時に、横畠地域の人たちから信頼してもらっている様子が言葉の節々から感じられるとも話してくださいました。

― これからは、農業も仕事の柱にしていきたい!

横畠地区ではたくさんの人が農業を営んでいて、山椒、しょうが、スイカ、薬草、ピーマン、お茶などが特産品です。専業農家の人もいれば、家族で食べる分の小さな畑を営んでいる人もいて、その規模は様々です。

大原さんは、集落活動センターでの仕事のほか、農作業の繁忙期に専業農家でアルバイトもしています。その経験をしていることで地域の人たちの本当の苦労が最近わかってきたのだとか。

「この前、雨の中カッパを着て山椒の摘み取り作業のアルバイトへ行ったんです。カッパで蒸れて真夏のように暑いし、体も痛いし、ご飯を作る気にもなれなくて…。この地域のみなさんは、そういう体力的にしんどい仕事を毎日していることを、私はもっと早くわかっていてもよかったと思いました」。

この経験も背中を押して、これからは「食を通じて身近な人の健康を支える仕事」も視野に入れている大原さん。まだまだやりたいことの構想を描いている最中ですが、近い将来は農業も仕事の柱にしていきたいとのこと。

「今、家族でやっている畑は支出を抑えるための農業なので、収入を増やす農業にも挑戦したい。売り物になる野菜を育てるのは難しいことも分かったうえで、農業をする覚悟はできています」と決意を固めたコメントが返ってきました。

横畠に移り住んで、もうすぐ7年目。大原さんの次なる活動にも注目です。