矢賀裕樹さん
滋賀県出身。2018年5月、妻の恵里香さんと共に田野町の地域おこし協力隊に着任。
全国にファンをもつ完全天日塩職人・田野屋塩二郎氏に師事し、独立を目指して修行中。
—前職では、18年もトラックドライバーをされていたそうですね。塩づくりには以前から興味をお持ちだったのですか?
いえ、それが全く知らない世界でした。そもそも若い時は、働くこと自体にあまりこだわりが無かったんですが、30歳を過ぎたぐらいですかね、仕事についてふと「このままでいいんだろうか」と。長年病院勤めをしていた妻も、ちょうど同じように考え始めていた時期だったので、ハローワーク含めて1~2年色んな仕事を探し回りました。
—意外! 幅広く転職活動をされていた中で、塩職人を選ばれたんですか。中々コアなところを……しかもご夫婦で、高知まで。
どの仕事にもピンと来ないなという時に、偶然テレビで田舎暮らしの特集を見かけて。そこでしかできないような“地元ならではの仕事”にお互いの興味が一致しました。「こういう働き方なら、年とっても2人でやっていけるよね」と。
—なんと…タイミングといい方向性といい、以心伝心! いや、愛!!!
まあ、そうですね(笑)
それからは全国の移住情報をかたっぱしから収集して。実際に各地を訪れると、どこも住みやすそうだし、良いところもたくさんある。けど、「住む」よりも「働く」を軸にしていた僕らにとって、「その土地ならではの仕事」に惹かれないとやっぱりダメで。決め切らない時にたまたま足を運んだ高知県の移住セミナーで、今の師匠・田野屋塩二郎氏に会って初めて話を聞きました。
—おお、運命の出会い。塩づくりにビビッときちゃいましたか。
はい。といっても、そこで塩職人にぐっと入れ込んだのは、実のところ妻のほうで。自分は結構慎重派だったんです。やってみると改めて分かりますが、完全天日塩の製塩は365日体制で休みはないし、本当に体力勝負の仕事なんですよ。僕はともかく、妻がもつだろうかと心配だったんです。
—わあ……また……愛……!!
(笑)
でも2人でじっくり話し合って、彼女の決意も固かったですし、じゃあ飛び込んでみようと。塩づくりに携わって一年ちょっとになりますが、つくづく奥深い、完成形のない仕事だなと感じます。師匠がついてくれるといっても、教科書はないし、思い通りのものはまず作れない。
—全く知識のなかったところから始めて、経験を積んでこられたからこそ、悩みも多くなってきそうですね。かけた愛情も、塩に測られるというか。 お仕事以外の面で、悩みとか困ったことって何かありますか?
それが、全然ないんですよね。失敗とかトラブルが。
—え。 私は一日一ヘマだったんですが……こう、ひとつぐらい……
妻とも話してたんですが、やっぱり出てこなくて。お互い、何事もじっくり考えてから動くタイプだし、田舎暮らしについても事前にとことんシミュレーションをしていたからかもしれません。地域のみなさんもすごく温かくて、困ったことはないですね。
—……今回のインタビューは「やっちゃった話」をメインにするつもりだったのに…まさかないとは(笑)。 お仕事のことではどうですか、何かお悩みとか。
残り2年間の任期を終えてから、職人としてちゃんと独立できるのかという不安や焦りは、もちろんありますよ。でも塩ってとても繊細で、作り手の気持ちの揺らぎが明らかに仕上がりに影響するんです。手を抜いたらもちろん分かりますし。
—なるほど。奥さまや師匠とも、そうした悩みは共有されていますか?
そうですね。妻とは仕事の面でもパートナーになった分、ぶつかることもありますけど、同じ方向を向いてやれているなと。師匠自身も県外から移住して、2年ほど修行して独立した人なので、何かと気にかけてもらっています。
—一貫して、愛ですね。では最後に、ご自身にキャッチコピーをつけるとしたら、何ですか?
うーーーーん………(沈黙)
—今日の私の感想になっちゃうんですけど、「用意周到な愛妻家」とかどうですか。
じゃあ、それでお願いします(笑)
「ひょっと」
意味:ひょっとすると、もしかして
例:ひょっと、エリちゃんは俺のこと、好きながやないろうか…?
(訳)ひょっとしたら、エリちゃんは俺のことが好きなんじゃないの…?
矢賀さんコメント:思わず聞き返す、というほどでもないですが、なんか耳につくことばですね(笑) 会話で「ひょっと、ひょっと」って結構頻繁に出てくるので。