三原大知さん
長野県出身。2018年12月、津野町の地域おこし協力隊に着任。
津野町内の荒廃茶園や耕作放棄地を活用し、お茶の栽培に奮闘中。茶葉製造・販売会社の営業職として培った知識と経験を基に、お茶を使った新商品の開発も手掛け、道の駅やイベントを中心に販売している。
・荒廃茶園の復興
・お茶を使った商品開発及び販売
・長野で知らない人はいない老舗企業の”おぼっちゃん”、高知の山奥の茶畑に一目惚れしてしまう。
・仕事に対する情熱、妻に対する愛、人生観……どれも実年齢以上に深すぎる! が、その表面は……?
・津野町発、全国的な六次産業起業家を目指して。草刈り機を片手に、青年は今日も山へ行く。
― 三原さんは、農業には初挑戦とのことですが、「お茶」という作物そのものにゆかりがあるんですよね?
うちの家業が、明治7年に創業したお茶の製造・販売の会社だったんです。ただ今の時代、単に茶葉を売るだけじゃやっていけないということで、お茶を使ったスイーツの製造やカフェの営業に父が事業を拡大し、長野県内に約10店舗展開していて。兄や姉が継がなかったこともあって、末っ子の僕が5代目として商品開発や仕入れ管理、営業なんかを担当していました。
― え、いわゆる御曹司……。それが急に高知へ移住だなんて、ご両親に「バカモーン!!」と殴られる定番のシチュエーションじゃないですか。
いやいや、それが快く送り出してもらいました。親子一緒に働く、後継するということの難しさをお互い実感していましたし、僕自身も父のような事業家になりたい、起業してみたいという気持ちもあって……。そんな時、一番茶の主要仕入れ元だった津野町を初めて訪れたんです。それから、「ここで一次産業を始めて六次産業化を目指したい」と津野町の農協に電話するまで、約2週間。
― そこで協力隊制度を紹介してもらい、応募したと。「勢い」や「直感」で移住を決める典型だ!
そういう性格なんで(笑)。農家が減少して耕作放棄地が増えていると聞いたのと、何より「なんて素晴らしい茶畑だ!!」と感動したんですよ。まぁ実際に来てみると、荒れ切った急斜面の畑で2m超まで伸びたお茶の木を刈取るところから始めなくてはならず……さっそく心が折れそうになりましたけど。畑は今約6000坪借りてますが、半年後に妻が来て手伝ってくれるようになるまで一人黙々と作業して。体力的にはもちろん、人と話すのが好きな僕にはキツかったですねえ。
— 6000坪……うわぁ、想像したくない。長野で生まれ育った奥様も、よくついてきてくださいましたね。
まぁ、惚れられてるんで!(満面の笑み)
— なんて素敵な夫婦仲……というより、素敵なチャラさ(笑)。
「チャラい」はよく言われますねえ。ちょっと前までは頭の左半分だけ刈り上げた髪型で、着任直後に出た飲み会で自分から“返杯”をしに回ったら、止めどころが分からなくなって途中から記憶飛んじゃうし、その後の飲み会もとにかく全力でやり切りますし(笑)。それはそうと、昔ながらの田舎の人付き合い、コンビニまで40分かかるような環境、それに農業の手伝い……インドア派で人見知りの妻には、結構な苦労をかけていますよね。でも僕のことをよく理解してくれていて、ずんずん進んでいってしまう自分を一線引いたところから見て止めてくれる存在として、感謝しています。
— うーん、表面のチャラさとは裏腹に(?)実際はすごく深く考えているタイプですね。
あ、「老けてる」とも言われます、こんな顔なんでね! って、考え方や価値観は、移住してから大分変ったところもありますよ。家業や家族から離れて初めて、自分に見えないところでかかっていたお金とか、経営者になるために求められる利益へのシビアさに気づきましたし。
— 老けじゃなくて、大人になったんですよそれは(笑)。さて、自然相手の仕事だと定期的な休みはとりにくいはずですが、プライベートはゆっくりできていますか?
茶畑でボケ~っとしてることもありますが、どこか出かけるのは月に一度あるかないかで、ほとんど仕事してますね。
― なんと、ワーカホリック。夫婦仲への影響が心配に……。
協力隊は副業がOKということで、一年目に摘んだ茶葉や町名産の「親子茶」*などをフレーバーティーに製品化して、販売を始めまして。妻は絵を描くのが得意なので、パッケージのデザインをやってもらってるんですよ。
― おお、ここでも見事な二人三脚ぶり!
この仕事も茶畑同様、最初の数か月は相当しんどかったですけどね。初期投資に結構かかりましたし……。でも徐々に県内の道の駅を中心に販売先を増やせているので、もっと販路を拡大していきたいですね。どうしても、お茶の栽培だけでは食べていくのは難しいので、売るところまでしっかり頑張らないと。
― 頼もしい! この土地でナリワイを作るビジョンがしっかり描けているんですね。生活面では、お子さんを持たれるかどうかでまた変わりそうですが……。
ここに来た時期も含めて、僕は何かとタイミングや運に恵まれていると思ってますし、骨をうずめるつもりですよ。協力隊への応募や移住に迷う人には、不安をすべて解消しないと挑戦できないという気持ちがあるかもしれませんが、やってみたくなったら行動した方がいいんじゃないですかね。失敗しても立て直せるわけだし。……。ちなみにですが、とりあえず子どもはいいかなぁ。
― あれ、意外。
だって女性って、出産すると旦那に冷たくなっちゃうっていうじゃないですか。
― クセが、じゃなくて愛が強い!
*「親子茶」・・・一番茶と二番茶の間に収穫するお茶のこと。
「狭い茶畑」
立花:やっぱり茶畑推し(笑)。